深夜寝ていたら、お臍に手を当ててと、妻がいきなり言ってきた。

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妻は歌い手である。

妻が主催の場合、子連れフレンドリーなライブを時々実施している。
ライブ当日を最高のものにしていく準備を、本人が日々着々と続けていくわけだけれども、頭を使いすぎて緊張が抜けきれず、頭が冴えたまま、深夜を迎えることもときにはある。

妻が自分で努力して、あれこれ試したあとで、どうにも自分ではコントロールするのが難しいと悟ると、冒頭の要望が入ってくる。

もちろん、私は、とっくに寝ているか、寝入り端だ。

私一人が寝ているのが、癪にさわるわけではないのだろうが、私からすると、眠っているのにいきなり依頼がきて、どうにかしてほしいと突然言われるわけだ。

寝耳に水の経験は幸いまだないが、寝入り端は、睡眠が深くなって行く最中なので起こされると結構きついものがある。

しかし、体が資本である以上、睡眠はとても大切だし、体がしっかりしていないと、ライブ自体もろくなことにはならない。

私はヒーリングを通じて施術や講座や対話で、体に訊いたことを依頼者に伝える役割を、ありがたいことにさせていただいているが、妻は、詩や歌を通じて、私よりも多くの人と繋がる役割をさせていただいている。
ほぼマンツーマンの私よりも、数多くの人に伝える事が出来る詩や音楽の役割はとても大きいと私は思っている。

だから、どんなに眠くてぼーっとしていても、その役割を全うできるように応援するのは、私の大切な役割の一つだと思っている。

お臍に手を当ててなにをするかというと、特別な夜の秘め事のような儀式ではない。

これは施術について開発の結果生まれてきた、エネルギーにより元に戻るために、とても役にたつ調整の一つだ。

お臍は臍帯を通じて胎盤に繋がり、お母さんと繋がっていたわけだけれども、臍の緒が外れたあとは、ただの痕跡で、通常役に立たないものだと考えられていると思う。

私も、長い事そう信じていたし、解剖学的な見地や、肉体としては、きっとその通りなんだろうと思う。

ただ、知人の男性のチネイザン(氣内臓療法)を生業にしている方に、お臍は重要な要素の一つだと、聞いたことがあり、少し深いチネイザンを受けたときに、なんとなくその匂いを感じ取ったことがある。

そこで、お臍から全身にエネルギーを届けたらどうなるかという、実験を自分にしてみた。

何があっても大丈夫なように、寝入る前に実験してみた。

服の上から、お臍に手を当てて、エネルギーを掌からすっと届ける。
注ぎ込むと言う方が、現実に近いのかもしれない。

蜂蜜を垂らすように細くではなく、消防ホースのような太さで、光のようなエネルギーをドドドっとだ。

エネルギーが届くべきところに届くようにと、お臍に存分に注ぎ込んでみた。

お臍から体のなかに入って、見えない道を通じ、全身の細胞一つひとつに注ぎ込まれるようになイメージで注いでみた。

結果は、体の外から内に伝えるよりも、細胞に浸透する度合いが高まったのを感じた。
内側から外側へ、じわじわと滲み出るような感じを強く受けた。

細胞はどう変わったかというと、それまでに増して緩んでくれた。
外部から届けるものよりも、緩み方が柔らかく、穏やかで、これから変化をする準備が完了したような感じがした。

今では、ここから更に体の状態を深く読み取り、注ぎ込むエネルギーの組み合わせをあれこれと工夫し、施術の一番最初に5分から7分ほどかけて実施する大切な役割を担っている。

体も変わるが、心もまた穏やかになるのが、もう一つの大きな特徴で、妻が冒頭でねだったのはこの部分の効果が欲しかったからだ。

人は、極度の重圧がかかったり、強い心配ごとや不安があると、同じことをずっと考え続けたりする。
車で言う所のアクセルを緩めたり、休むスイッチの位置をすっかり忘れてしまうようになる。

緊張が続くと、どうしても体も心も冷え込んでくるから、たとえお風呂に入っても、暖かい布団に包まれても、芯からの暖かさに包まれるのはかなり後になることが多い。

そんな状態でも、呼吸法や軽い運動や、瞑想、音楽やアロマ、お風呂や光でどうになることもあるが、そこを超えてしまうとどうにも自分では手に負えなくなる。

妻がねだるのは、きっとそんな状態のとき。

だから、私は、妻のお臍の上に手を当てる。
そして、意識をしゃっきりさせてから、お臍へのエネルギーワークを実施するのだ。

どがつくほどの真夜中に。

お臍に手を当てて、数分もすると、体の緊張がほぼなくなり。
呼吸も穏やかな感じになり、寝息にあと少しというところまで到達する。

この頃には手足の冷えもなくなり、幸せな暖かさが体を包み込んでくれている。

さらにゆっくりとエネルギーを届け、全身の細胞の隅々にエネルギーが届くようにしていく。

すると、ある一瞬、ふと力が抜けたような、感覚がこちらにやってきて、寝入る寸前だとわかるのだ。

その信号が届いたので、ゆっくりと、お臍のエネルギーワークを終了し、起こさないように時間をかけて手をそっとどかす。

こうして、妻の穏やかな眠りが始まっていく。

寝入ったのを確認したら、私も再び、朝まで睡眠をとるために、再び布団のなかに。

ライブに来る人が心地よくなって笑顔で帰るシーンを思い描きながら、ぐっすりと寝ていくのだった。